【millennium parade(ミレニアムパレード [通称:ミレパ])】の「Philip(フィリップ)」について、歌詞の意味を徹底的に考察および解説していきたいと思います。
✔ MVの物語と結びついた歌詞
✔ 過去曲「Stem」との関係性
✔ 次世代への “祈りの歌”…?
抽象的で難解な歌詞は、MVの世界と密接に結びついたものでした。この記事ではゆっくり丁寧に考察していきます。
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8年越しのアレンジ曲
今回紹介していく「Philip」は、常田大希さんが出演した『adidas CASUAL Collection 2020 Fall/Winter』のCMに起用されたmillennium paradeのニューシングルです。
YouTubeではMVも公開中。必見です。
楽曲を手掛けた「millennium parade」は、King Gnuの常田さん(Vo.G)率いる音楽プロジェクト。
今回の楽曲では作曲とボーカルを常田さん(Daiki Tsuneta名義)が務め、作詞やラップはかねてより親交のあったYuta Nakanoさんが担当されています。
今回新曲として公開された「Philip」ですが、実は完全に新しく制作された楽曲ではありません。
原曲はKing Gnuの前身バンド、Srv.Vinci時代の楽曲「Stem」。
常田さんが二十歳の頃に作った楽曲を、8年越しにアレンジを加えて蘇らせた楽曲なのです。
作詞は「Stem」も「Philip」同様Yuta Nakanoさんです。
楽曲名「Philip」とは
「Philip」は主に英語圏で男性に付けられる名前の一つ。
楽曲のMV公開前に配信されたインスタライブ内でmillennium paradeのメンバーは、タイトルについて「要するに人の名前というか犬の名前」「無力で虐げられた存在」といったことをおっしゃっていました。
「Philip」のMVは犬を主人公とした物語仕立てのアニメーション作品になっています。
どうやら今回の楽曲の内容はこのMVの物語を前提に成立しているようで、MVにおいて無力で虐げられた存在である犬の名前こそが「Philip」であるようです。
この楽曲名が歌詞の内容とどう関与しているのでしょうか。
さっそく歌詞を見ながら考察していきましょう…!
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歌詞
It must’ve been raining
The world’s all cleaned up
A breeze goes by
We are in the skyYea, the branches of noise are overgrowing,
and the sky gets darker…
But you can forget about the roulette spinning in that stronghold,
and the scene you are seeing through its loopholeAfter duels to produce another fiction,
the question is “So, who won?” and then, “Won what?”
But I’m out, I’ll cut down the stem of fear not to win or lose
But It’s for us to be at a stream ―
All day looking at its surface where many rings are widening,
as we throw in little stones
They sink below, be unknown, be in silence
It’s almost scientific
This balance’s called peace!The rings are gently touching people near us,
and the people are throwing stones in for other people near’emSee? you don’t have to wait up
Go to sleepIt must’ve been raining
The world’s all cleaned up
A breeze goes by
We are in the skyThe water seems cooler, the fruits seem sweeter,
and the breeze feels lighter
You may be thinking they changed ― uh uh
It’s you who turned them upside down
That liberty in you flipped inside out and came out!Now the branches of noise are all covered with greens,
and the breezes are swayin’em; the fruits are dropping at their feet
(after the duels to produce another fiction
that may have created more deaths of privation)It can’t get any darker
I’ve been trimming the plants by the stream
where a soldier rested ― it was long ago
He was all wet, he was so worn out
because he’d fully shed his blood!
So, he took the arms and clothes off,
threw’em away at the foot of tree for the takeoff,
flew up against gravity
Just as the morning sun, he burns and goes aboveIt must’ve been raining
The world’s all cleaned up
A breeze goes by
We are in the skyYea, I was resurrected!
My mind disconnected the feet from the ground,
and I passed through the storm
after enduring massacre, overtaken by noise
and chaos, pathos oozing outta loophole!
Overdosing on the stories, I’d metamorphosed into Hades
Thoroughbreds, crossbreds had repeated the duels
Till the storm abated, and its eye appeared upon me
It looked at me after we’d fully shed our bloodAh that calmness! A hope!
To a big hole in the sky, I flew up at top speed
and reached the black space with no ups or downs
Nor was the wind blowing
So I finally dismantled my wings;
It’s just an old storyTime to go back now
Hey, morning has broken and roll the drops of dew
The world’s all cleaned upGo Philip as you like
It’s all fineIt must’ve been raining
The world’s all cleaned up
A breeze goes by
We are in the sky作詞:Yuta Nakano
歌詞(和訳)の意味・解釈
It must’ve been raining
The world’s all cleaned up
A breeze goes by
We are in the sky
世界がすっかりキレイになった
そよ風が通り過ぎる
俺たちは空にいる
和訳はMVの公式訳を引用しています。
また今回の楽曲の全歌詞に触れていくと凄まじい文量になってしまうので、一部をかいつまんで考察を進めさせていただきます。ご了承ください。
ちょっととっぴな歌い出しで、一見するとどういった内容の楽曲なのかを掴めない歌詞ではありますが、ここで注目したいのはMV冒頭のワンシーンです。
主人公の犬が、何者かに当てた手紙を記すシーン。ここで記されている文章が歌詞と一致しています。
つまりこの楽曲の歌詞はそのものが独立して何かを歌ったものであるというよりは、物語の中で主人公が記した文章。
いうなれば、「Philip」はこの物語の劇中歌なのです。
また、原曲である「Stem」内には英語で次のような歌詞が登場します。
僕のフェンスで守られたこの場所では雨が降り止まない
「Philip」における「雨が降っていたんだね」という歌詞は明らかにこれに呼応するもの。
今回の楽曲は「Stem」の内容と関係したものであることが暗に示されているように思います。
これらを踏まえたうえで、後の歌詞を見ていきましょう…!
1番
Yea, the branches of noise are overgrowing,
and the sky gets darker…
But you can forget about the roulette spinning in that stronghold,
and the scene you are seeing through its loophole
空が暗くなってきた。
けど、君は忘れていいよ。
要塞で回ってるルーレットのこと、
その銃眼から見ている景色のこと。
抽象的な歌詞で、日本語訳も意訳ではなくシンプルな直訳なので難解な歌詞ですが、この部分もまた原曲「Stem」の内容と呼応しています。
ノイズの小枝が僕の土地まで伸びてきたら、 僕はそれを切り落として、その汚れで日々を紛らわすべきだろうか?
日本語訳を引用していますが原曲は全編英語詞。
「Stem」の歌詞も極めて抽象的ですが、アバウトに全体を要約すれば【負のループから抜け出せない様】を描いているように思います。
争い合い、終戦を迎えて歓喜し、やがて過去に無関心になり、再び争い合う。
外部からのノイズを意識し、時にそれを排除しようとする。
その規模の大小の相違はあれど、人は過ちを繰り返す。
そういったことが歌われているようです。
その点「Philip」では「ノイズの枝が伸びすぎて、空が暗くなってきた。」と描かれていて、また「けど、君は忘れていいよ。」とも歌われています。
外部からのノイズを排除することなく容認し、それを意識せずに生活しようとすらしているのです。
これはある意味で、ノイズの枝を切り落とし再び争い合うという負のループを断ち切る行為。
「Philip」における主人公は、物語の内容に即して考えれば愛する人との再会をきっかけに、差別や主義主張の相違に起因する憎しみのサイクルから抜け出しています。
敵組織に属していた女性と社会的なタブーを犯して暮らしているのですから、彼は負のループを離れ差別の根幹を断ち切っているのです。
「雨が降っていたんだね 世界がすっかりキレイになった そよ風が通り過ぎる 俺たちは空にいる」
社会のしがらみに縛られず、自分たちらしく生活している。
彼らは ”空” で暮らしています。
After duels to produce another fiction,
the question is “So, who won?” and then, “Won what?”
But I’m out, I’ll cut down the stem of fear not to win or lose
But It’s for us to be at a stream ―
「誰が勝った?」「そいつは何を勝ち取った?」
ってことばかり。
けど、俺は抜けるよ。
俺が、恐怖の茎を切り落としておく。
「勝ち負け」のためなんかじゃなく、
小川のそばに俺たちがいられるように——
この部分の歌詞は他の歌詞と比べるとだいぶ読みやすい歌詞になっています。
世の中は新たな創作・創造を行う過程において、勝敗や利害関係のことばかり考えて争ってばかり。
でも俺はそんな風潮から抜け出して、ただ平穏に暮らすために行動したい。
社会の後ろ暗い側面を抜け出して自分たちのために生きている、という主人公の生き方が強調されています。
2番
The water seems cooler, the fruits seem sweeter,
and the breeze feels lighter
You may be thinking they changed ― uh uh
It’s you who turned them upside down
That liberty in you flipped inside out and came out!
そよ風はより軽やかに感じる。
君は、
それぞれ自身が変化したんだと思ってるだろうけど、
ううん、そいつらをひっくり返したのは君なんだ。
君の中のあの自由がひっくり返って、
外に出てきたのさ!
ちょっと歌詞を割愛して2番の考察に移ります。
この部分の歌詞は、最愛の人との出会いにより主人公たちに訪れた変化を描いたものでしょう。
MVでいうところの青い服の犬、および二人の間に宿った新たな命の存在。
フルーツが甘くなったのではなく、そよ風が軽やかになったのではなく、君がそれらを変えたんだ。
世界が変わったんじゃなくて君がもともと持っていたものが、その全てをひっくり返したんだ。
生き方ひとつで世界は変わる。
そんなことが歌われている気がします。
Now the branches of noise are all covered with greens,
and the breezes are swayin’em; the fruits are dropping at their feet
(after the duels to produce another fiction
that may have created more deaths of privation)It can’t get any darker
I’ve been trimming the plants by the stream
そよ風が枝を揺らして、
フルーツは彼らの足元に落ちる。
(俺たちはいつもフィクションに踊らされていた。
それはさらなる窮乏による死に
つながっていたかもしれない。)
これ以上は暗くならないさ。
俺、ずっと小川のほとりで植物の手入れをしてたんだ。
彼はこれまでフィクション(創作・作り話)に踊らされていました。
現実に即して考えれば、それはたとえば差別や相異なる主義思想のことでしょう。
元々は姿も形も存在しない、誰かの思想のために人々は争ったり、ノイズを遮断したりしているのです。
だけど彼はもう植物の手入れをすること、つまりノイズの枝を切り捨てることを辞めました。
既にこれ以上は暗くならないくらいに、ノイズの枝は伸び切ってしまっています。
しかしフィクションに踊らされずに暮らし始めてからは、むしろ穏やかな環境で愛を育むことができた。
さらなる窮乏による死をまねくことなく、彼らは平穏な暮らしを手に入れたのです。
2番後半の歌詞は再び割愛し、次は楽曲の山場ともいえる3番を考察していきます。
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コメント
なるほど!何となくですが理解出来ました。わかりやすい解説ありがとうございます。
やはり常田さんの軸は常に「愛」にあるようですね。男女、家族、人間だけでなく、生きとし生けるものへの愛。
そこが心を捉えられる理由なのだなと思いました。
おっしゃる通り、作詞者が違うということで描かれ方には大きな違いはあるものの生きる者への愛というのは常に軸にありそうですね。
「世の中ノイズだらけだけど自分らしく生きていこう」というKing Gnuの楽曲でよくみられるスタンスも今回の楽曲に共通しているように思います。