化けの皮なんていつか剥がれる。
見向きもされない夜が来る。
その時に見られる景色が心底楽しみで。そうだ。
何一つもなくなって、地位も愛も全部なくなって。
何もかも失った後に見える夜は本当に綺麗だろうから、
本当に、本当に綺麗だろうから、僕は盗んだ」
ここにきて、単に「満たされたいから」という理由とは180度異なる主人公が「盗作」を行う真の理由が語られています。
彼の盗作の動機は、「何もかも失った後に綺麗な夜を見たかったから」。
これだけではよくわからないので、詳しく説明を重ねていきます。
「何もかも失った後の夜は本当に綺麗だろうから」
この部分だけ聞くとかなり難解ですが、同アルバムの「盗作」の次の曲「思想犯」に似たような歌詞が登場します。
「さよならの後の夕日が美しいって、君だってわかるだろ」
これらの歌詞で描かれているのは、人間として極めて普遍的な感情。
恋愛映画のさよならも、甲子園の後のサイレンも、爆ぜた花火も、祭りの後の静けさも。大きな何かが、全て綺麗さっぱり無くなった後のひと時というのは、得も言えぬ美しさがあるのです。
何もかも失ったその後で、迎える最後の瞬間は何よりも美しい。
言葉で端的に言い表すのは難しいけれど、きっと伝わってくれていると信じます。
彼は、音楽家として「盗作」で生計を立てる暮らしを送っています。
自分の音楽で支持を得れば、きっとそれは彼の死後も作品として評価されえ続けてしまいます。
しかし盗作で得た富や名声なんか所詮化けの皮。
盗作の真実を世間に公開すれば、それまでに得てきた富、名声、信頼、評価、すべては一瞬で砕け散ります。
そうすれば、すべてを失った後の最高に美しい夜を見ることができる。
この愛に飢え、孤独に捕らわれた心をきっと満たすことができる。
だから彼はひたすら盗作を続け、世間に自らが評価された今その真実をカミングアウトしたのです。
彼は自らの人生を「作品」だと認識している節があります。
言うなれば彼が作っていたのは美しい楽曲そのものではなく、「盗作家の人生が破滅する瞬間を体現した自分」という作品。
盗作をカミングアウトして独白インタビューが世間に公開されたその瞬間、彼の作品は完成を迎えます。
ラストサビ
嗚呼、まだ足りない。もっと書きたい。
こんな詩じゃ満たされない。
君らの罵倒じゃあ僕は満たされない。
まだ知らない愛を書きたい。
この心を満たすくらい美しいものを知りたい。
ここからの歌詞で描かれているのは、恐らく盗作の事実が世間に露見した後の主人公の心境でしょう。
あれだけ盗作を続け、最後に独白インタビューによりその全てを失った主人公。
しかし彼の心は満たされることなどありませんでした。
「こんな詩じゃ満たされない。」
「君らの罵倒じゃあ僕は満たされない。」
「まだ知らない愛を書きたい。」
美しいものを知りたい。その一心で彼は音楽を続けることとなります。
まだ足りない。まだ足りない。
まだ足りない。まだ足りない。
まだ足りない。僕は足りない。
ずっと足りないものがわからない。
まだ足りない。もっと知りたい。
この身体を溶かすくらい美しい夜を知りたい。
「盗作で最後に美しい夜を知りたい」という彼の真の目的。
しかし盗作を告白して全てを失っても、まだ心は満たされていない。
「まだ足りない。僕は足りない。」
「ずっと足りないものが分からない。」
「この身体を溶かすくらい美しい夜を知りたい」
彼は盗作を作り続けたこれまでの人生ではたどり着くことのできなかった、「美しい夜」を夢見ています。
「盗作家の人生が破滅する瞬間を体現した自分」という作品の完成。
それでも満たされることのなかった男の苦悩。
それがこの「盗作」という楽曲であるように思います。
感想
作品の完成と男の渇望。
盗作家としての音楽人生の破壊衝動を完遂した主人公はこの後、自らの美しい思い出に耽り続けることとなります。
アルバムにおいて「思想犯」「夜行」「花に亡霊」といった後の楽曲に綺麗に繋がっていく、極めて重要な楽曲であるように感じました。
また、随所にクラシックのオマージュが埋め込まれているのも興味深いですね…
ラスサビの「美しい夜を知りたい」という歌詞直前のピアノも「ジムノペディ」という誰もが聞いたことのあるピアノ独奏曲の引用のようです。
ここまでもっともらしく考察を書き連ねてきましたが、これは私個人の一解釈に過ぎません。
皆さんも是非歌詞を楽しみながら、しっくりくる解釈を探してみて下さい…！
【ヨルシカ／盗作】
歌詞の意味の解釈でした！
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コメント
す…凄い✨