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【ヨルシカ/嘘月】歌詞の意味を徹底解釈!主人公の美しき思い出と怒涛の結末。

2番

歳を取った一つ取った
何も無い部屋で春になった
僕は愛を底が抜けた柄杓で飲んでる
本当なんだ
味もしなくて飲めば飲むほど喉が渇いて
そうなんだって笑ってもいいけど
僕は夜を待っている

春が訪れ、一つ歳を取った主人公。

1番で「夏が去った」という歌詞があったので、少なくともそこから半年以上の月日が流れたことが分かります。相も変わらず主人公は独りきり、部屋には何もありません。

「僕は愛を底が抜けた柄杓で飲んでる」

これはまた俳人・尾崎放哉の自由律句『底がぬけた柄杓で水を呑まうとした』をオマージュした歌詞だと思われます。

 

確かにそこに求めているものがある。でも僕は底が抜けた柄杓でそれを飲んでいる。

当然一滴も掬えず、味もしなければ喉も潤いません。ただそれを求める気持ちが募るばかり。全く無駄な動作です。

 

ここで歌われているのは、愛がたとえそこにあったとしても今の主人公はそれを受けとるだけの能力がないということ

孤独を感じ愛を渇望する主人公ですが、どれだけ求めようと愛を享受する度量がないのだから彼は一生満たされることが無いのです。そして主人公は自分でもそれをよくわかっています。

 

「僕は夜を待っている」

ここで「夜」という概念が登場しますが、これはどうやら時間帯としての「夜」ではないようです。

 

n-bunaさんは「夜行」という曲を発表した際、「ここで言う夜は人生の夜です。大人になること、忘れること、死へ向かうこと、を夜に置き換えて書いた曲です。」とコメントしています。

よってヨルシカの楽曲群のコンテクストからすると、ここでいう「夜」「大人へと向かうこと」

 

主人公は若き日の君との美しい思い出に別れを告げ、前に進み、本当の意味で大人として生きる日が訪れることを望んでいるのです。

 

3番

君の鼻歌が欲しいんだ
ただ微睡むような
もの一つさえ言わないまま
僕は君を待っている

この部分の歌詞は1番サビと同様のことを唄っています。

 

君の鼻歌が欲しい

主人公は美しい記憶が静かに眠りにつけるような、君の鼻歌を望んでいます。もう一度あの頃の君に会って、君の愛を感じながら思い出を締めくくりたいのです。

自分で記憶を断ち切ることはきっと物語として美しくないし、きっと主人公にそんなことはできないでしょう。

 

あの頃の記憶に、あの美しい日々に、未だに諦めきれないあの幸せな時間に、それを忘れ去れるだけの納得のいく結末が欲しい。だから僕は君を待っている。

 

きっと懐かしい過去を持つ人間なら誰しもそう思っているだろうし、その言葉に嘘はないはずです。

 

しかし、この楽曲の終着点はそんな愚かな願いの先にあります。

この曲の主人公に言わせれば、そんな願望は ”嘘” なのです。

 

ラストサビ

君の目を覚えていない 君の口を描いていない
もの一つさえ言わないまま
僕は君を待っていない
君の鼻を知っていない 君の頬を想っていない
さよならすら言わないまま
君は夜になっていく

「僕は君を待っていない」

最後の最後で、主人公はここまで吐き続けてきた ”嘘”にNOを叩きつけます。

 

彼の心はもうあの頃から変わってしまっていて、君の目も鼻も口も、今更思い出す事すらできません。

今更君に再会したとて、もはや君のことなんか覚えていない。

そんな時に君が「さよなら」を告げたところで、そんなの物語の結末になんかならないのです。

彼はもう綺麗な涙も流せないし、愛の一つも感じることはできません。

もうあの頃の自分ではないのです。

 

さらにそれは「君」の方も同じこと。

僕が大人になっていくように、君も大人になっていきます。あの頃の君はもういないし、どれだけ待てどあの頃の君になんか会えません。

 

あの頃みたいに君と会って、君の「さよなら」で美しいエンディングを迎える。

そんな純文学のラストページのような美しい結末は、主人公の思い出には絶対に訪れないのです。

 

だから主人公は、君を待ってなんかいません。

 

「君の鼻歌を待ってる」なんて綺麗事を言って自分の記憶を美化しようとしているけれど、そんなの ”嘘” だとわかっているのです。

 

人間の思い出というものは、絶対に結末を迎えることなく「今は亡き美しい記憶」として心にまとわりつき続けるのです。過去を懐かしみ今の自分を嘆く、という徒労から一生逃れることなどできません。

 

 

私たちが願う「美しい思い出の結末」も実際は存在しないし、本当はそんなこと心のどこかでわかってるでしょ?

 

主人公にそう投げかけられているようで、核心を突かれたような、逃げ出したいような、言葉にならない感情を言い表してくれて嬉しいような、悲しいような、不思議な感覚に襲われます。

 

私たち人間の「美しい記憶」という幻想は、ここで「結末など訪れない」という結論と共にかき消されていくのです。

 

感想

人間の過去の追憶という行為に、残酷な結末を叩きつけた楽曲「嘘月」。

どれだけ美しい思い出にエンディングを求めようと、私たちは一生そこから逃れることなどできません。

これまでの楽曲でも「ただ君に晴れ」を筆頭に同様のテーマを扱った楽曲は多くありましたが、ここまで明確なアンサーが歌われた曲はこれまでになかったような気がします。

これからのヨルシカが一体何を求め何を歌うのか、楽しみで仕方ないですね。

 

【ヨルシカ/嘘月】

歌詞の意味の解釈でした!

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コメント

  1. より:

    めっちゃ面白かったです!!
    解説ありがとうございました!
    ここの歌詞考察は初めて読んだのですが、とても分かりやすくて、面白かったです!!
    やっぱり、歌詞ってすごいですね。というか、音楽がすごいのか…
    でも、例えば、普通に歌詞の部分を「文」として読むと分かりにくいけど、「曲の歌詞」として読むと、なんとなくでも深い意味を感じるというか…それをこのめっちゃ分かりやすい解説と一緒に読んだりその曲を聴いたりすると、その深い意味が分かってくるといいますか…
    上手く説明できないですが、とにかくとても良かったです!!ありがとうございました!
    これからも頑張ってください!!

  2. ヨスガ より:

    ラストサビが「嘘」だと思いこんでいたのですが、むしろラストサビが本当のことだったんですね…。目からうろこでした。
    また「夜」が「大人へと向かうこと」であるという注釈も、自分の中で見える世界が広がったように思います。

    私見としては、「月は夜になると現れる」という原理も解釈に含められそうだなと思いました。この曲の中で「月」は何を表しているのかというのも考えてみたところ、「月のように綺麗な人」のことなのかなぁと。綺麗だけど、「君」ほど好きではないし愛することも出来ないような存在。
    つまり、夜(大人)になると綺麗な月(綺麗な人)と出会えるけど、そんな月は僕にとっては嘘(君ではない)だというのが「嘘月」ってことなのかなと思いました。
    そして、『君は夜になっていく』というラストで、夜になった(大人になって綺麗になった)君は、僕にとってもう「君(僕の好きな相手)」ではない、ということなのかなと思いました。
    曲の最後にうっすら「本当なんだ 夜みたいで 薄く透明な口触りで」という歌詞がありますが、だんだんと「君」ではなくなっていくことを表しているようにも思います!

    長々とすみませんでした、つじつまが合っているかどうかはわかりませんが、とにかく歌詞の解釈を考えることの面白さを強く実感しました!ありがとうございます!!

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